材料産業化するリサイクル業界
〜再生プラスチックに求められる「品質」と「安定供給」〜

今回も本コラムをお読みいただき誠にありがとうございます。日本シーム 岩渕でございます。

先日、小学生とオセロに興ずる機会がありましたが、普通にメチャクチャ負けました。そもそも、世の中は白黒つければ良いというわけではありません。コーヒーでもミルクでもなく、カフェオレが飲みたいことだってあるじゃありませんか。そうやって世界はうまく回っているのです。…さて、負け惜しみはここまでとして、今回はこのリサイクル業界において、しばしば対立軸として扱われがちなケミカルリサイクルとマテリアルリサイクルのお話です。

「優劣」ではなく「役割分担」へ

数年前まで、マテリアルリサイクルには物性低下や適用範囲の限界があることから、複合素材や汚染物を分子レベルまで分解して再資源化できるケミカルリサイクルに大きな期待が寄せられ、「次世代の本命」として語られる場面も少なくありませんでした。そして現在、実証や社会実装が進む中で、世界の市場や実務の現場では、ケミカルとマテリアルのどちらが優れているかという二項対立ではなく、それぞれの特性を踏まえた役割分担をどう設計するかという方向へと議論が移りつつあるように感じます。今回は、両者の強みと課題、そして「適材適所」の循環モデルについて考えてみたいと思います。

ケミカルリサイクルの可能性と課題

まず、ケミカルリサイクルの可能性について改めて整理してみます。その最大の特長は、多層フィルムなどの複合素材や、印刷・着色プラスチック、さらには食品残渣などを含む汚染プラスチックに対しても適用できる点にあります。理論上は分子レベルまで分解・再合成することで、バージン材と同等品質の原料製造も可能であり、特に食品接触用途や医療用途など、高い安全性と品質が要求される分野において重要な選択肢として期待されています。 一方で、大規模な社会実装が進むにつれて、環境負荷や経済合理性、原料品質などに関する課題も徐々に明らかになってきました。

経済産業省の「革新的プラスチックリサイクル技術確立に向けた検討会」などでも指摘されているように、熱分解やガス化を伴うプロセスは多くのエネルギーを必要とします。そのため、LCAの前提条件や評価方法によっては、ケミカルリサイクル由来の樹脂がバージン樹脂製造と同等、あるいはそれ以上のCO₂排出量となるケースも報告されています。また、数万トンクラスのプラント建設には多額の投資を要することに加え、安定稼働のためには塩素系樹脂や金属などの異物混入を厳しく管理する必要があります。言い換えれば、ケミカルリサイクルも決して「何でも処理できる魔法の箱」ではなく、原料品質や前処理技術への依存度が高いプロセスであることが、実用化を進める中で改めて認識されつつあります。

再評価されるマテリアルリサイクル

こうした現実が見えてきたことで、その価値が改めて見直されているのがマテリアルリサイクルだと言えるでしょう。マテリアルリサイクルは、一般的にバージン樹脂製造やケミカルリサイクルと比較して製造段階のCO₂排出量を低く抑えられる傾向にあり、低炭素性と経済性に優れた手法として評価されています。

かつては、繰り返し使用による物性低下や臭気、異物混入などが課題として挙げられていましたが、近年の技術革新はその限界を着実に押し広げています。過去のコラムでも数多くご紹介してきましたように、近赤外線選別やAI技術の進歩によって高精度な単一素材化が可能になり、さらに、高度洗浄や脱臭・脱墨技術、コンパウンド技術の進化によって、再生材は自動車部品や家電筐体のみならず、特に欧州では一部の食品接触用途など高い品質管理が求められる領域にも広がりを見せています。

両者を支える「前処理」と欧州の潮流

もちろん、透明性の維持や高い衛生水準が求められる用途への使用など、物理的な制約による限界が依然として存在することも事実です。ここで興味深いのは、マテリアルリサイクルを高度化するためにも、ケミカルリサイクルを安定して運用するためにも、共通して重要になるのが前処理工程であるという点です。熱分解やガス化プロセスでは、塩素や金属などの異物が収率や設備寿命に影響を与えるため、安定した運転には高品質な原料供給が不可欠です。

一方、マテリアルリサイクルにおいても、再生材の価値を左右するのは選別や洗浄の品質に他なりません。実際、欧州の大手化学メーカーであるBorealisやOMVなども、機械式リサイクルとケミカルリサイクルを並行して推進すると同時に、原料供給や前処理技術の強化に積極的に取り組んでいます。つまり、ケミカル・マテリアルを問わず、破砕・選別・洗浄といった前処理技術は単なる準備工程ではなく、循環システム全体の性能を左右する基盤技術として、その重要性をますます高めていると言えるでしょう。

このような考え方は、サーキュラーエコノミーの先進地である欧州において、制度設計の中にも色濃く反映されています。EUでは廃棄物階層の考え方を基本とし、可能な限り環境負荷の低い手法を優先する方向性が一貫して示されています。近年議論が進む包装及び包装廃棄物規則(PPWR)やマスバランス方式を巡る制度設計においても、まずマテリアルリサイクルを最大限活用し、それでは対応が難しい領域を他の手法で補完するという考え方が根底にあります。

また、欧州の化学メーカーやブランドオーナーの動きを見ても、機械式リサイクルとケミカルリサイクルを競合技術として捉えるというより、それぞれの得意分野を活かしながら組み合わせる方向へ進んでいるように見受けられます。

「対立」から「最適化」へ

ここまで見てきたように、ケミカルリサイクルとマテリアルリサイクルは、決してどちらか一方が他方を置き換えるような関係ではありません。低炭素性と経済性に優れるマテリアルリサイクルを最大限活用し、その限界を超える領域をケミカルリサイクルやその他の手法で補完していく。こうした多層的な循環システムの構築は、持続可能な資源循環と安定した材料供給を両立する上で、有力な方向性の一つになっていくのではないでしょうか。そして興味深いことに、どの手法を選択する場合であっても、その入口にある破砕・選別・洗浄といった前処理技術の重要性は、むしろ高まっています。

「ケミカルか、マテリアルか」という二者択一の時代から、「どの材料を、どの技術で、最も合理的に循環させるか」を考えるこの時代において、個々の技術を対立軸として捉えるのではなく、それぞれの特性を理解し、循環システム全体を最適化していく視点が、これからますます重要になっていくのだと思います。白か黒かではなく、時にはカフェオレくらいがちょうどいいのかもしれません。もっとも、オセロとなれば話は別です。あの時、角を取っていれば間違いなく私が勝っていました。笑