材料産業化するリサイクル業界
〜再生プラスチックに求められる「品質」と「安定供給」〜

今回も本コラムをお読みいただき誠にありがとうございます。日本シーム 岩渕でございます。

私は今、このコラムを2026 NEW環境展の弊社ブース、バックヤードの中で執筆しています。即席のダンボール箱製デスクの高さが絶妙で、かなり芸術的な姿勢でPCに向かっています。

前回は、自動車向け再生プラスチック市場構築のための産官学コンソーシアムが取り組む「集約拠点」構想についてお話ししました。環境省や経済産業省も関わるこの取り組みは、単なる回収・処理の施設ではなく、品質の均質化と安定供給を実現するための新たな仕組みとして注目されています。そうした具体的な動きの背景には、再生プラスチックを取り巻く環境の大きな変化があります。今回は「材料産業化するリサイクル業界」というテーマで、その潮流について考えてみたいと思います。

再生材利用は「特別」から「前提」へ

昨今の潮流を一言で表すならば、「再生材利用は特別なことではなくなりつつある」という言い方がしっくりくると思います。かつて再生材は「環境配慮型材料」という位置付けで語られることが多く、使用すること自体に価値がありました。しかし現在では、自動車、家電、日用品、包装材など幅広い分野で再生材の採用が進み、「環境に良い特別な材料」ではなく製品設計や量産工程で当たり前に使われる材料へと移行しつつあるということです。

こうした動きは、各社の公開情報からも明らかです。自動車業界では、欧州OEMを中心に再生材使用率の目標公表が相次いでいます。Volvo Carsは2030年までに新車に使用するプラスチックの平均25%を再生材・バイオ材とする方針を掲げ、Renault Groupもリサイクル材の使用比率向上を継続的に進めています。日本国内でも、トヨタ自動車が2030年までに日本・欧州で販売する車両の重量の30%以上を再生材とする目標を公表しており、スバルも2030年までに新型車で使用するプラスチックの25%以上をリサイクル素材由来とする目標を掲げて研究開発を進めています。

包装分野においても、飲料・日用品メーカーによる再生PET使用比率向上の発表はもはや珍しいものではなくなりました。制度面でも、EUのPPWR(包装・包装廃棄物規則)やELV規則改正など、再生材利用を後押しする規制が着実に整いつつあります。つまり再生材利用は、自主的な取り組みを超えて、事業活動や製品設計の前提条件の一つになりつつあると言えます。

再生材に求められる「使い続けられる品質」

こうした潮流の中で、再生材市場に対する関心も変化しています。従来は「どれだけ回収したか」「どれだけ再生したか」が重視されていましたが、現在はそれに加えて「安定して使い続けられる品質・量が担保されているか」という視点が強く求められるようになりました。これは、再生材が本格的に工業材料として扱われ始めたことを意味すると思っています。工業材料として量産に用いる以上、一時的に良い品質が出せればよいわけではありません。毎月、毎ロット、一定の品質で供給され続けることが求められます。

例えば、MFI(メルトフローレート:樹脂の溶融流動性を示す指標)の変動は流動性に、色差は外観品質に直結します。黒点や微細異物は製品不良の原因となり、臭気は食品・日用品用途で重要な管理項目となっています。自動車分野ではVDA 270のような臭気評価試験が標準的に用いられ、食品接触用途ではEFSAやFDA対応を前提とした厳しい管理が求められるケースも増えています。

新品材は原料・製造条件が比較的安定している一方、再生材は回収由来であるため、投入原料の組成、汚れ状態、印刷、内容物残渣などが常に変動します。つまり「変動する原料から、変動を抑えた材料を安定供給する」ための高度な工程管理が不可欠です。ここに再生材特有の難しさがあります。

品質管理とトレーサビリティの重要性

近年、再生材に対しても従来の工業材料と同等の品質管理が求められる場面が急増しています。自動車業界ではIMDS(International Material Data System:自動車業界で広く用いられている材料情報を一元管理する国際的なデータシステム)による材料情報管理が一般化し、再生材にもトレーサビリティが要求されるようになりました。家電・電子機器分野では難燃性、色調、異物管理などの要求水準が年々高まっています。包装分野、特に食品用途の再生PETでは、回収工程だけでなく洗浄・除染・異物除去に至る工程全体の管理が重視されています。

市場にとって本当に必要なのは、「極端に高性能な(≒限りなくバージンに近い)再生材」ではなく、「一定の品質を安定して供給できる再生材」なのではないでしょうか。一ヶ月は良好でも翌月には色差や臭気が大きく変動するようでは、量産現場で継続採用は難しくなります。そのため、品質分析、工程管理、ロット管理といった、素材産業に近い視点が再生材業界にも浸透し始めています。

リサイクル工程は「処理」から「品質設計」へ

この変化は、リサイクル工程そのものにも影響を及ぼしています。従来、リサイクル工程は「異物を除去する処理工程」と見なされることが多かったように思いますが、現在求められているのは「設計通りの品質を安定的に生産する」ことです。そのためには、単一工程ではなく、工程全体を通じた品質設計が不可欠です。選別精度は品質の基礎を決めます。材質の混在はMFI変動や成形不良の原因となるため、NIR選別やAI選別の導入が進んでいます。

ただし選別だけで品質が決まるわけではありません。洗浄工程では表面汚れだけでなく、油分・内容物残渣・印刷インキへの対応、さらには樹脂内部に浸透した臭気成分の除去が求められます。高品質な再生材は、単一の装置が生み出すものではなく、選別・粉砕・洗浄・脱水・分析といった複数工程の積み重ねによって初めて実現します。

リサイクル産業は「材料産業」へ向かう

この視点は、リサイクル産業の将来を考える上でも重要です。これまでは「どれだけ集められるか」が大きな競争力でした。しかし今後は、それに加えて「どの品質を、どれだけ安定して供給できるか」がより大きな差別化要因になると考えられます。言い換えれば、リサイクル産業はやはり「処理業」から「材料産業」としての性格を強めつつあるのかもしれません。

品質分析、工程管理、トレーサビリティ、安定供給体制といった要素が、再生材市場での競争力を左右する時代に突入すると信じています。その意味でも、再生材市場は大きな転換点を迎えているのでしょう。 そろそろ私も姿勢を転換しないと、腰を痛めそうです。