再生材は「使われて」こそ価値になる ― PPWRと日本の容リ制度を比べて
今回も本コラムをお読みいただき誠にありがとうございます。日本シーム 岩渕でございます。
突然ですが、皆さんは買い物をしたあと、冷蔵庫の中に「いつか使うだろう」と取っておいた調味料が増えていくことはないでしょうか。我が家にもあります。いつ買ったのか分からない謎のソースや、旅行先で勢いよく購入したものの、その後一度しか登場していない調味料。捨てるには惜しい。でも使わない。資源循環という壮大なテーマと一緒にするのは少々乱暴ですが、作ったものは、誰かが使って初めて価値を発揮するという点では同じなのかもしれません。
前回は、再生プラスチックの「臭気」を題材に、品質を客観的に評価し、その価値を市場で適切に認識してもらうことの重要性についてお話ししました。再生量だけでなく、どのような品質の再生材を社会へ供給できたのかという視点が、これからますます重要になるのではないか、というお話です。実は今回のテーマは、その続きでもあります。
PPWR始動 ― 「高品質なリサイクル」とは何か
本日、私がこのコラムを執筆している2026年8月12日、EUで「包装及び包装廃棄物規則」、いわゆるPPWR(Packaging and Packaging Waste Regulation)の適用が始まりました。PPWRというと、プラスチック包装への再生材使用義務が注目されがちですが、その対象はそれだけではありません。包装の設計、製造、使用、再利用、回収、リサイクルまで、ライフサイクル全体を対象とし、包装廃棄物そのものの削減や再利用、リサイクルしやすい設計などを含め、包装の循環性を高めることを目指した規則です。2030年以降には、一定のプラスチック包装について使用済み消費者由来のプラスチック廃棄物から得られた再生材を一定割合以上使用することも求められます。例えばPETを主材料とする接触感応型包装では30%、使い捨てプラスチック飲料ボトルでは30%、その他のプラスチック包装では35%が2030年の最低基準となります。
ここで私が興味深いと感じるのは、PPWRが単純に「もっとリサイクルしましょう」と求めているわけではない点です。PPWRでは「High-quality recycling(高品質なリサイクル)」について、再生された材料が技術的特性を維持し、元の材料と同等の品質を持つことで、包装や類似用途において一次原料を代替できるリサイクルと定義しています。つまり、「廃棄物を再生材にしました」で終わりではありません。「どのような品質の再生材に戻し、それを再びどこで使うのか」というところまで考えて初めて循環がつながる、という考え方です。
日本の容リ法とPPWR ― 集める仕組みと、上流から変える仕組み
ここで日本の容器包装リサイクル制度に目を向けてみると、共通する部分がある一方で、少し異なるアプローチも見えてきます。日本では1995年に容器包装リサイクル法が成立し、消費者が分別排出、市町村が分別収集、事業者が再商品化を担うという役割分担のもと、家庭から排出される容器包装を資源として循環させる仕組みを長年構築してきました。日本は、使用済み容器包装を「集めて、資源に戻す」という社会システムを、かなり早い段階から整えてきたと言えるでしょう。
一方、PPWRで特徴的なのは、こうした回収・リサイクルに加えて、包装が廃棄物になる前の段階、つまり「どのような包装を市場に出すのか」という上流側まで一体的に規定している点です。リサイクルしやすい設計、包装の最小化、再利用、そして再生材の使用など、廃棄された後にどう処理するかだけではなく、最初から循環することを前提に包装を設計するという考え方が色濃く表れています。
再生材を「使う仕組み」をどう作るか ― Borealis社とX to Carの挑戦
もちろん、日本でもプラスチック資源循環促進法の施行などによって、ライフサイクル全体で資源循環を考える方向へ政策は広がっており、「日本は遅れていて、欧州が進んでいる」という単純な話ではありません。むしろ私が注目したいのは、もう一つの違いです。それは、再生材を「作る仕組み」と、「使う仕組み」の関係です。日本の容リ法では、対象となる事業者に再商品化義務を課すことで、回収された容器包装を再び資源として利用する仕組みを構築してきました。一方PPWRでは、包装廃棄物の回収・リサイクルに関する枠組みに加えて、プラスチック包装そのものに一定割合以上の再生材を含めることを求めます。
つまり、再生材を供給するだけではなく、「再生材を使う側にも一定の需要を生み出す仕組み」が組み込まれているということです。これは、これからの再生材市場を考える上で非常に重要な点だと思います。いくら多くの廃プラスチックを回収しても、再生材を作っても、それを継続的に購入する企業がなければ市場は回りません。また、異物を減らし、臭気を抑え、物性を安定させるためには、選別、洗浄、脱臭、品質管理などへの投資が必要です。しかし、高品質化にかけたコストが再生材の価値として評価されなければ、その投資を継続することも難しくなります。
では、その再生材の「使い先」は、元と同じ製品でなければならないのでしょうか。この点について、PPWRでは「高品質なリサイクル」を、必ずしも水平リサイクルだけに限定しているわけではありません。再生材を同等のグレードで包装に戻すことに加え、その品質を維持できる他用途で一次原料を代替するという考え方も示されています。
必ずしも包装に限った事例ではありませんが、欧州には興味深い取り組みがあります。例えばBorealis社では、PCRを50%または65%含む再生PPコンパウンドを自動車部品向けに展開し、65%PCRのグレードについては2024年から量産車で使用されています。ここで重要なのは「再生材だから採用された」ということではなく、品質や純度、加工性、性能など、自動車部品に要求される条件を満たした材料として採用されている点です。もちろん、PPWRそのものが自動車用途への再生材利用を求めているわけではありません。ただ、高品質な再生材の利用先を元と同じ製品だけに限定しないという点では、こうした事例も一つの示唆を与えてくれます。再生後に求められる品質を満たすことができれば、新たな用途へつなぐことができる。こうした「X to X」の発想も、高品質な再生材の価値を考える上で重要になっていくのかもしれません。
日本でも、環境省の「自動車向け再生プラスチック市場構築のための産官学コンソーシアム」において、使用済み自動車から再び自動車へ戻す「Car to Car」だけでなく、自動車以外の製品から得られた再生プラスチックを自動車へ利用する「X to Car」の将来見通しや市場構築策が検討されています。2026年3月には、令和7年度の「自動車向け再生プラスチック市場構築アクションプラン」も公表されました。
「量」から「質」へ ― リサイクルの成果を測り直す
こうして見ると、欧州と日本では制度の成り立ちやアプローチは異なりますが、向き合っている課題には共通する部分があるように感じます。これまでのリサイクルでは、「どれだけ集めたか」「どれだけ再生したか」という量が重要な指標でした。もちろん、これからも量が重要であることに変わりはありません。しかし、再生材が本格的に工業材料として利用される時代には、それだけでは十分ではないのでしょう。「どのような品質の再生材を作れるのか」「その品質を安定して供給できるのか」そして「その品質を誰が評価し、どのような価値として認め、どこで使うのか」という一連の流れがつながって初めて、再生材市場は持続的なものになっていくのだと思います。
PPWRの適用開始は、欧州の包装政策が大きく変わる節目であると同時に、私たちが「リサイクルの成果」を何で測るのかを改めて考える機会でもあります。再生材を作ることがゴールではありません。その材料がもう一度誰かに必要とされ、製品として使われて、初めて次の循環が始まります。
そう考えると、我が家の冷蔵庫に眠る謎のソースにも、そろそろ「需要創出策」が必要なのかもしれません。なんとかします。2030年までに。
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