再生プラスチックの未来を支える ― 脱墨と脱臭の最前線
今回も本コラムをお読み頂き誠にありがとうございます。日本シーム 岩渕でございます。
前回のコラムでは欧州と日本のリサイクル政策を比較し、制度設計や循環経済の前提条件の違いについてお話ししました。今回はその続きを、いや、続きではないかもしれません。前回も一部触れた「脱墨」と「脱臭」について、詳しく取り上げてみましょう。せっかくですから、引き続き欧州の事例を交えながら紹介したいと思います。

再生材の課題は「見た目」と「におい」
再生プラスチックの用途拡大を阻む大きな壁のひとつが「見た目」そして「におい」です。とりわけ包装フィルムやラベル材などには多くのインクが使われており、色混ざり・色ムラなどの原因になります。また、使用済み食品容器などには、油分や香料、可塑剤といった成分が素材内部に浸透しており、再生材には不快なにおいが残ってしまいます。このような課題に対し、インクを除去する「脱墨」や臭気を軽減する「脱臭」がその解決策として注目されているわけです。
特に食品容器・包装材の分野では、再生材の品質が安全性に直結します。EU規則(2022/1616)では、食品接触材料(FCM)の再生プラスチック使用に厳しい規則が設けられ、化学物質やにおいの食品への移行を防止することが必要要件として定められました。見方によっては、脱墨や脱臭が単なる再生材の価値向上手段ではなく、安全性を担保するための必須プロセスとなりつつあるのかもしれません。

欧州と日本における脱墨の役割とジレンマ
さて、それではまず脱墨についてですが、本稿では脱墨の技術的な解説ではなく、欧州と日本における脱墨の役割の違いを考えてみます。欧州において、脱墨処理は単なるインク除去にとどまらず、得られる原料の品質ばらつきを抑え、均質な原料として再生材市場に供給するという役割を担っています。つまり、欧州における脱墨の役割は「再生材の均質化」であると言ってもいいでしょう。また、インクメーカー側においても脱墨性の高いインクの開発が進んでいます。インクを除去するという静脈産業側の技術開発のみならず、動脈側においても脱墨を前提とする動きが加速しているようです。
一方、日本において脱墨に求められている役割を端的に言えば「再生材の品質を限りなくバージン材に近づけること」ではないでしょうか。製品の美観や包装材の機能性を重視する日本の市場では自明の要請かもしれません。その高い志に間違いはないと確信していますが、ひとつ問題があります。それは、先ほどの要請には「でも価格は安くしてね」というおまけの一言がついてしまう点です。再生材なのに品質はバージン並、でもバージン材より安い!という夢のような話が成立すれば良いのですが、残念ながらそんな美味しい話はありません。嗚呼、ジレンマ!

進化する脱臭技術と「脱臭困難物」への挑戦
さて、私の心の叫びが出てしまいましたが、脱臭のお話に移りましょう。脱墨と並んで、近年その必要性を増しているのが脱臭処理です。樹脂表面に付着した汚れに由来する臭気であれば、弊社のフィールドである摩擦洗浄やケミカルウォッシュが有効です。しかしながら、特に使用済のポリオレフィン系素材では、臭気成分が素材内部に染み込んでおり、単なる表面洗浄では除去が難しいという課題があります。
こうした「脱臭困難物(岩渕命名)」に対しては、樹脂内部の臭気を脱気させ飛ばす方式が有効とされ、また超臨界二酸化炭素を用いた先進的な脱臭技術も実証段階に入っているようです。ここでひとつ白状しますと、高1の「化学基礎」で躓いた私としては、さっきから何を言っているのか自分でもよくわかりません。コラムの末尾に参考URLをいくつか添えておきますので、詳しくはそちらをご覧くださいませ。

循環経済を支える基盤技術としての脱墨・脱臭
脱墨や脱臭に共通するコンセプトは、従来は再生原料として不適とされていた原料を、化学的なアプローチによって循環の中に取り込むことを意図しているという点です。こうしたアプローチは市場に対する再生材の供給量の増大、質の向上と同時に、埋立や焼却の縮小を意味します。言い換えれば、脱墨や脱臭は単なる工程にとどまらず、再生材の出口戦略を支える基盤技術となり得るとも言えるのではないでしょうか。
日本でも制度設計や市場ニーズが欧州型に近づきつつある今、環境機械メーカーが洗浄を技術として磨くことは、業界全体の信頼性と価値を高めるうえで不可欠です。これからも制度と市場、そして現場を結ぶ橋渡し役として、より高度な洗浄技術の開発と実装を進めてまいりたいと考えています。

参考URL一覧
1. Toyo Ink Europe – 脱墨性に優れたサステナブルインクの開発
https://artience-toyoinkeurope.eu/en/sustainability
2. Toyo Ink Europe – 脱墨対応インクの解説記事
https://artience-toyoinkeurope.eu/en/news/unveiling-the-art-of-de-inking
3. INX International – 欧州基準に対応した脱墨性インクの開発報告
https://www.inxinternational.com/news/inx-validates-deinkable-ink-aid-european-recycling
4. AIMPLAS – 超臨界CO₂による脱臭技術の検証
5. EU NONTOXプロジェクト – 廃プラ中の有害物質除去に関する技術研究
6. Coperion – 脱臭対応押出ラインとZS‑EGサイドデガッシングユニット
https://coperion.com/en/industries/plastics-recycling/plastics-recycling-odor-reduction